| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-429 (Poster presentation)
ムサシモNajas ancistrocarpa A. Braun ex Magnusは,トチカガミ科イバラモ属に属する1年生の沈水植物である.ムサシモは全国的に希少な植物であり,環境省版レッドリストでは絶滅危惧ⅠB類に指定されている.近畿地方ではすでに絶滅と判断されていたが,2017年に兵庫県小野市で新たな産地が発見された.そこで,兵庫県産ムサシモを保全するために必要な基礎的な情報を得るため,兵庫県小野市のため池におけるムサシモの生育状況と生育環境を調査した.
調査は7月25日~10月29日の間に月1回程度行ない,生育地の植物相,水位変動,水深分布,底質の調査を行なった.また,生活史を明らかにするため,開花・結実フェノロジーを調査した.
植物相調査の結果,15科21種の水生植物が確認された.貧栄養な水質を好むイヌタヌキモとタチモが生育していたことから,水質は富栄養ではないと推察された.当該地のため池の水は灌漑用水として利用されていることから,農繁期には最大で約45 cmの水位変動があった.ムサシモは水深20~170cmの深さの場所で採集されたが,主な生育水深である水深20~40 cmに存在したパッチは水位の低下に伴う干出により消失した.この池にはムサシモと同属のオオトリゲモも生育し,一部ではムサシモと混生していたが,ムサシモはオオトリゲモよりも水深が浅い場所に主に生育しており,オオトリゲモよりも水位変動の影響を受けやすい可能性がある.ムサシモは底質が小礫と粗砂で構成されている場所で確認された.ムサシモは7~9月の間に開花・結実していたが,オオトリゲモは9月に結実しており,ムサシモよりも結実期が遅く,両種の開花・結実フェノロジーは異なることが示唆された.今後の課題として,年間の水位変動と種子発芽生態の関係を明らかにすることで,ムサシモの保全策を考察することが挙げられる.