| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-430 (Poster presentation)
コシガヤホシクサは1995年の野生絶滅後、生息域外保全がなされてきたが繁殖特性は考慮されてこなかった。そのため、遺伝的な負の影響が常に懸念されてきたが、2016年の先行研究では複数の形質にて断片的に他家交配の重要性が検出された。成長量では他家交配の重要性が検出されず、これには母性効果が関係すると考えられた。各母株での他家交配による影響を同時に推定し、その影響の占める割合を算出することで、株単位での保全管理方法に係る基礎知見を見出せる。そこで本研究では適正な保全管理を検討するために、階層ベイズモデルを用いることで母性効果による他家交配の影響の変化を明らかにした。
2016年度の栽培実験における葉枚数と最大葉長(5-7月)・花序数(8-9月)の計測値(欠損のない15母株)を使用した。階層ベイズモデルの線形予測子は切片と傾き(自家:0、他家:1のダミー変数)を含み、各々に母株を変量効果として設定した。葉枚数と花序数はポアソン分布、最大葉長はガンマ分布、各パラメータは無情報事前分布として正規分布、一様分布を設定した。各母株の傾きの95%確信区間から、他家交配の影響を負・中立・正の影響の3つに分類した。
全時期の全ての形質において、他家交配の影響は負と中立の影響が過半数を占め、正の影響は過半数以下だった(葉枚数:0.33%, 0.4% , 0.33%; 最大葉長0.3%, 0.4%, 0.27% ; 花序数:0.33%, 0.33%)。また、最大葉長と花序数に関しては、時間の経過とともに負の影響の割合が増加していた。
母性効果由来の他家交配の影響が断片的であったことは、正の影響を持つ母株が保全集団中では低頻度であり、遺伝的多様性の消失が現在進行中である可能性を示唆している。また、負の影響が時間とともに累積的に増加する事は本種が常習的な自殖種である証拠でもある。そのため、保全管理において、集団の遺伝的多様性の低下・均一化の回避には遺伝的多様性を持つ家系単位での保全が望ましいと改めて確認された。