| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-431 (Poster presentation)
ニホンアカガエルRana japonicaは,日本の固有種で本州から九州に分布している。滋賀県において本種は2月から3月にかけて中山間地や丘陵地の浅い止水に集まり,交接後に産卵する。孵化した幼体は成体となり上陸後は陸域で生活する。本種の主な減少要因として,里山環境の劣化や圃場整備による冬季の乾田化が指摘されている。そこで本種の効果的な保全活動を実施するために,遺伝的集団構造を用いた保全ユニットの検討を試みた。対象地は滋賀県野洲川流域を中心とする12地区20地点および,遺伝的構造の比較対象として琵琶湖を挟んだ対角に位置する高島市マキノ町の1地点を選んだ。野洲川は鈴鹿山地から琵琶湖に向かい東から西に流れ,琵琶湖流入河川の中で最大の流域面積をもつ。2017年4月,各地点からニホンアカガエルの幼生をランダムに採集し尾部組織を用いてDNAを抽出した。mtDNAのCytcrome b領域をPCR法によって増幅し,ダイレクトシーケンス法にて塩基配列を決定した。得られたハプロタイプ構成の特徴から,甲賀市地域のニホンアカガエル個体群は野洲川とその支流杣川で3つのグループに分けられることが推察されたため,各個体群の統計指標による考察を行った。またマキノ町とはひとつのハプロタイプを除いて共通のハプロタイプが得られなかった。Tajima's DおよびFu's FSは野洲川右岸個体群(グループA, n=47)および中央個体群(グループB, n=190)で有意に負の値をとり近年の個体群拡大が示唆された。杣川左岸個体群(グループC, n=40)は塩基多様度が他の2グループよりも1桁高いという特徴があった。また,グループBは3グループの中で最も低い塩基多様度とハプロタイプ多様度をもち,2つの河川を越えた個体群の交流が難しいことが示唆された。そのため,まずはこの2河川によって分けられた3グループを保全ユニットとし,本種の遺伝的交流の機会を増やすために,それぞれの地域で冬季の水辺環境の維持などを行う必要があると考えられる。