| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-432 (Poster presentation)
野生動物における感染症には雌雄で感染状況に違いが生じることがあり、行動様式の違いなどが原因とされている。多くの哺乳類では雄が長距離の分散を行うことから、雄が感染症の感染拡大により大きな役割を果たすことが予想される。本研究ではイノシシにおけるオーエスキー病の感染について、空間集積性の雌雄差を検討した。
オーエスキー病は養豚生産に問題を引き起こすウイルス感染症で、日本では全国的な清浄化対策が進められている。野生イノシシもオーエスキー病ウイルスへの感受性を有しており、豚への感染源となり得ることから、野生イノシシでの感染実態の解明が求められている。本研究では、2014-15年度に全国的に実施されたイノシシにおけるオーエスキー病ウイルス抗体保有調査の中で、陽性個体が集中した紀伊半島の3県(奈良県、和歌山県、三重県)で捕獲された成獣100頭(雌:54, 雄:46)の捕獲地点を用いた。幼獣は移行抗体の影響が疑われることから、推定体重30kg未満の個体は除去した。まず、イノシシの捕獲地点の空間集積性について、K関数を用いて雌雄差の有無を検討した。続いて、雌雄それぞれについて、実際の陽性個体の捕獲地点のK関数値と、陽性個体の捕獲地点が全捕獲地点に均一に分布していると仮定して無作為に反復抽出した地点から算出したK関数値を比較した。いずれの解析も0.5km-50kmの空間スケールにおいて0.5km毎に実施した。
解析の結果、捕獲場所の空間集積性に雌雄差は見られなかった。一方、陽性個体の捕獲地点の空間集積性については、雌では15kmおよび25km前後の空間スケールにおいて集積性が認められたのに対し、雄ではいずれの空間スケールでも有意な集積性は見られなかった。このことは、雌では家族群内で感染が起こったのに対し、雄ではその影響が少なく、分散によって陽性個体が拡散したことを示していると考えられた。