| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-433 (Poster presentation)
全国各地の河川域において、1990年代後半より樹林の拡大が報告されている。本来河川域の水際では、増水等に伴う冠水、土砂の堆積等の攪乱を受けやすいことから、植生の疎らな礫河原や草本植生が広い範囲を占めていた。しかし、近年は河川の礫河原が減少するとともに、ヤナギ類等の樹林の分布拡大が顕著である。
河川管理において、樹林の拡大は洪水時の流下能力を低下させる等の理由で、主に治水への影響が問題となっている。一方で河川域の樹林の中は、近年の樹林拡大以前から分布していたり、生物多様性の保全や生態系サービスの維持において重要な役割を担っている可能性も考えられる。樹林の伐採等の管理は、これらを評価したうえで立てることが望ましい。
本研究は、植物のハビタットとしての樹林の役割を明らかにすることを目的とし、小貝川(利根川水系・茨城県)において、樹林の分布と絶滅危惧植物の分布との関係を国土交通省の実施する「河川水辺の国勢調査」データを用いて検討した。
その結果、対象とする15種のうち7種で、生育箇所の50%以上が木本群落であることが示された。木本群落に生育する種は、クヌギ群落、ムクノキ・エノキ群落およびヤナギ類群落で、期待値より有意に多くの生育箇所が確認された。これらの種はいずれも図鑑では、生育環境として樹林が挙げられていなかった種である。
過去25年で、小貝川において樹林面積は増加しているが、増加の大部分はヤナギ類群落が占める一方で、クヌギ群落等の増加はわずかであった。管理計画の立案においては、クヌギ群落等はその林縁を含め、絶滅危惧植物の生育地として機能していることを考慮することの必要性が示唆された。