| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-436 (Poster presentation)
人は"異常"な環境に日常的に接していると、それを異常と思わなくなる傾向にあるが、こうした現象を「基準推移症候群(shifting baseline syndrome)」と言う。子供の頃に見た世界は、親世代から見てどれだけ荒れ果てた世界であっても、その人にとってはあるべき世界の基準となる。そのため、環境の状態が刻々と劣化している状況では、世代が進むにつれて環境に対する許容基準が次第に低下していく(環境の劣化に対して寛容になっていく)恐れがある。本講演では、保全生態学に関わる様々な分野の研究をレビューし、現在の環境保全のなかで基準推移症候が果たす役割について整理する。具体的には、世界各地において基準推移症候群が進行していることを示す事例(自然資源や野生生物の減少、気候変動、環境汚染に対する人々の態度の変化)を紹介するとともに、基準推移症候群に関する新たな研究フレームワークを提示し、この現象が起きる原因と帰結について整理する。そして最後に、基準推移症候を理解する上で必要な今後の研究展開について述べる。