| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-446 (Poster presentation)
里山の生物多様性保全の重要性が提唱されて20年以上が経過している。中でも、水田生態系には絶滅危惧種が多く、その保全が求められてきた。しかし、近年では侵略的外来種の影響が各地で大きく、それ以外に生じている生態系の変化が把握されにくい。侵略的外来種の排除は保全上最重要である一方、侵略的外来種の侵入を免れた地域における生態系の現状とその問題点の把握は、今後の長期的な保全に向けて重要である。本研究では、そのような地域において水生生物の現状を把握し、保全上の課題を明らかにすることを目的とした。
石川県能登半島、中でも奥能登の平野~丘陵部はため池の水生昆虫の多様性が高い。一方、アメリカザリガニは2つの池のみに封じ込められ、オオクチバスは5ヶ所の池で根絶され、ウシガエルは侵入していない。
同地域では、ため池の水生昆虫を2001年よりモニタリングしてきた。ため池を代表するマルコガタノゲンゴロウの生息状況の変化と生息地および周辺の変化から減少要因を分析した結果、生息地数は半減し、残存する池では一部で個体数が減少傾向にあった。環境変化は、管理放棄による泥の堆積が約半数、池下部の休耕田増加、コガタノゲンゴロウ侵入がそれぞれ約2割、その他に水質悪化、イノシシ侵入であった。農家の高齢化に加え、近年の獣害急増による耕作意欲の低下が管理放棄の増加につながる可能性が示唆され、また、南方系のコガタノゲンゴロウは2017年以降急速に分布拡大し、国内移入種として影響が懸念される。
今後の長期的な生物多様性の保全には、地域が主体となる必要があるため、シンポジウムや広報などを2000年代に実施していた。しかし、地域の生物多様性への関心は低下し、2018年にはシャープゲンゴロウモドキの能登最大の生息地の埋め立て問題が起きた。行政との協働により地域への啓発活動を再開したが、問題は山積している。今後もモニタリングを通じた、実効的な保全を進めることが重要である。