| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-448 (Poster presentation)
国指定天然記念物イタセンパラAcheilognathus longipinnisは,国内3地域にのみ生息する純淡水魚である.生息地の1つである木曽川において本種は,主に河岸に形成されたワンドを利用しているが,個々のワンドは小さく,現在イタセンパラの生息が確認されているワンドは,流程約10kmの範囲内に限られて分布している.本研究では,木曽川におけるイタセンパラ保全を目的として,各ワンドで採集された個体を局所集団とみなし,各局所集団の遺伝的組成と局所集団間の遺伝子流動パタンの解明を目的としたマイクロサテライトDNA分析を行った.その結果,各局所集団は,概ね同程度の遺伝的多様度を示したが,有効集団サイズについては,下流に位置する局所集団ほど高い値を示す傾向が認められた.マンテルテストの結果,局所集団間における地理的距離と遺伝的距離との間には,有意な相関は示されず,距離による隔離は認められなかった.一方,対応分析の結果,河川右岸の局所集団と左岸の局所集団との間において,遺伝的組成が異なることが示唆された.最近の数世代における局所集団間の遺伝子流動を推定した結果,いずれの局所集団においても70%以上の遺伝子流動が自集団内で生じていると判断された.また,一つだけ河川右岸に位置する局所集団においては,97%の遺伝子流動が自集団内で生じていた.一方,河川左岸に位置する局所集団間においては,遺伝子流動の程度や方向性に規則性は示されなかった.以上の結果から,木曽川に生息するイタセンパラは,複数のワンドを局所的な生息地とし,その間で適度な遺伝子流動を維持するメタ集団構造を呈していると考えられる.また遺伝子流動パタンに対しては,河川の流れの方向よりも,右岸左岸の違いが強く影響している可能性が示された.そして,木曽川におけるイタセンパラの保全においては,局所的な生息地であるワンドの存在とワンド間の個体の移動に対する考慮が必要であると考えられる.