| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-449 (Poster presentation)
都市環境においては、捕食者の個体数は増加するものの、それによる捕食圧はむしろ低下し、結果として被食者の個体数も増加するという「捕食パラドックス」があることがいわれている。しかし具体のメカニズムに関する知見は乏しく、研究例が脊椎動物に偏っていること、捕食圧の変化を定量化しきれていないことなどが問題として指摘されている。これに関し著者らは、北海道苫小牧市にて生態的特徴の異なる2種類の陸産貝類を対象に、都市化に伴う捕食―被食関係の変化を明らかにする研究を行った。同市には地表性のエゾマイマイと樹上性のサッポロマイマイが分布している。私達はまず都市域の孤立林から連続性の高い自然林まで、面積と周囲の開発の状況が異なる9地点に3か所ずつ調査区を設置し、両種の生息密度を比較した。するとエゾマイマイは都市域の孤立した森林ほど高い密度で生息していた。一方、サッポロマイマイは、森林の連続性の高い地点ほど高密度で生息し、都市孤立林では出現しなかった。また調査地点に糸を結びつけた個体を設置したところ、エゾマイマイは、自然林の林床ではタヌキによる捕食がみられたが、都市孤立林ではそれが見られず調査期間中ほぼ100%の生存率を保っていた。地表に固定したサッポロマイマイも自然林で生存率が低下したが、樹上に固定した個体は都市孤立林と自然林ともに生存率が高かった。。これらの結果から、地上性のエゾマイマイは都市域において捕食圧が緩和され個体数が増加するが、樹上性のサッポロマイマイにはその現象がみられず、都市化による森林の分断化によって個体数が減少している可能性が示された。動物センサーカメラとピットフォールトラップによる調査から、都市化によって捕食者相の個体数が増加する傾向はみられなかった。両種の都市化に対する応答はいずれも捕食パラドックスを支持しておらず、捕食者・被食者の生態特性によって適合しない系があると推測された。