| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-451 (Poster presentation)
2011年の東日本大震災により津波被害を受けた東北太平洋沿岸では、津波後の生物の生息状況が調べられている。海産巻貝のウミニナ類は干潟を代表する生物であり、生息地の震災後の状況や各種の生息密度の変化が調べられているが、宮城県周辺では震災やその後の復旧・復興工事による干潟の消失が少なくない。
宮城県松島湾の櫃ヶ浦で行ったウミニナ類の生息調査では、準絶滅危惧種に指定されているウミニナの生息数が震災後に大きく減少しており、櫃ヶ浦の干潟環境の保全と共に他の干潟におけるウミニナ個体群の維持と干潟間の幼生の分散が被災地におけるウミニナの回復に重要であることが示唆された。
そこで、本研究では震災後もウミニナ類の生息が比較的豊かな宮城県北部の万石浦を調査地とし、万石浦における東日本大震災前後および震災後のウミニナ類の生息状況について調べた。
調査は、万石浦の「沢田」と「浦宿」にて2005、2006、2012~2017年の大潮の干潮時に、コドラートを用いウミニナ類の生息密度の調査を行った。また、浦宿では震災後の2015~2017年に、ウミニナおよびホソウミニナの体サイズの分布調査および新規加入個体の種組成調査を行った。形態による種同定が困難な小型個体についてはPCR-RFLP法を用い種同定をした。
調査の結果、沢田では地盤沈下により干潟が消失し、生息環境である干潟がなくなったことから沢田のウミニナ類個体群も絶滅したことが明らかになった。浦宿では、成貝から新規加入個体までさまざまな成長段階のウミニナが確認され、松島湾の櫃ヶ浦よりもウミニナの生息状況が良いことがわかった。また、浦宿では比較的大規模な水門工事が行われ、干潟生物への悪影響が危惧されたが、震災で沈下した地盤の隆起による干潟面積の拡大と共にその後もウミニナ類の高い生息密度が維持されている。