| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-460 (Poster presentation)
北海道日高地方アポイ岳中腹のかんらん岩上に分布する高山植物群落は、固有種や隔離分布種などに富み、国の特別天然記念物にも指定されている。ここでは過去の盗掘や植生遷移などによって劣化が進行し、特に7合目から上部の通称「馬の背」と呼ばれる稜線上一帯では、近年になってハイマツの侵入が著しく、アポイマンテマ、アポイクワガタ、ミヤマアズマギクなどが生育する群落の衰退が目立っていた。このため、群落の再生に向けた取り組みが開始され、2017年にはハイマツが試験的に伐採された。再生にはこの地域でのハイマツの生育特性の理解が不可欠であることから、その侵入・成長実態と、成長に影響を与えている要因を明らかにすることを目的として、試験的に伐採した7地点のうち、6地点においてハイマツ幹10本前後で地際円板を採取して成長過程を明らかにするとともに、成長に影響を与えている気象要因を解析した。そのほかに、馬の背地区に加えて標高の低い2地区で、年枝成長量と球果生産量も調査した。
馬の背地区の南向き斜面に位置する3地点では1940年代から、また北向き斜面の3地点ではそれよりやや早く1920年代末から侵入が始まり、どちらも1990年代まで継続した。侵入したハイマツの成長は、侵入年代に関わらず侵入後の10年から20年ごろに年輪幅0.5~0.6mm程度のピークを迎えたのち、漸減する傾向にあった。南向き斜面では、当年夏の気温が年輪幅に有意な相関を持たないのに対して、6月の降水量が有意な正の相関を持っていた一方で、北向き斜面では6月の気温が有意な正の相関を持つのに対して降水量は無相関であり、斜面方位によって気象要因に対する反応は異なっていた。馬の背地区での過去10年の年枝成長量は4.02cmであり、ハイマツ群落が卓越する大雪山や本州中部の各山岳と同程度であったが、幹あたりの球果生産数は最大でも年あたり1.13個で少なかった。