| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PH-07 (Poster presentation)
身近に生育するミツガシワが大分県の絶滅危惧種ⅠAに指定され、県内ではこの場所にしか存在しないことに興味を持ち、研究を行った。先行研究では栄養塩を与えた方がより成長することや、栄養生殖による遺伝的多様性の低下が示唆された。
そこで新たに、どの程度まで栄養塩を与えた方がより成長するかを明らかにする「(1)最適な栄養塩濃度を探る栽培実験」と葉と種子の遺伝的多様性から繁殖戦略を明らかにする「(2)葉と種子の遺伝子解析による繁殖戦略についての実験」の2つを行った。それぞれの方法については、(1)岡山のミツガシワ28個体を用いて栄養塩濃度の異なる7処理区で3ヵ月間栽培し、成長量を測定した。
(2)新潟や島根、岡山の生育場所4ヶ所から採取した葉と種子の計18サンプルからDNAを抽出しPCR後、DNAマーカーを用いた遺伝子多型解析を行った。その後、得られた電気泳動図から葉と種子間における相関係数を算出し、さらに主成分分析を行った
実験(1)の結果については、50・100倍の濃度でのみ成長がみられ、その他の濃度では減少した。さらに実験(2)では、相関係数は島根が0、岡山が1に近い値となった。また主成分分析で値のばらつきが小さかったのは岡山と新潟菖蒲であった。
以上の事から、島根は交雑、岡山は栄養生殖による繁殖戦略の可能性が考えられた。このことから、ミツガシワは通常の50~100倍の適度な栄養塩濃度でのみ成長すること、繁殖戦略は地理的分布に無関係で、個体群サイズに依存している可能性が考えられた。
ミツガシワが生存するためには、ある程度の栄養塩濃度と個体群サイズが必要であり、それにより遺伝的な多様性を維持できる可能性があることが判明した。現在は、個体群の規模の縮小に伴うボトルネック効果も見られる。まずは水深を深くしたり、周囲の広葉樹の環境を保全したりなどの、ミツガシワが生育しやすい環境作りが重要であると考えられる。