| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PH-13 (Poster presentation)
フィリピンウォータークローバーは主に東南アジアに分布している、デンジソウ科の植物であり、4枚の小葉をもつ。日本では自生していないが、アクアリウム用の水草として市販されている。小葉が水中で展開する(=水中葉)場合は、動物の掌のように葉が一方向に偏る。しかし、水面を越えて空中で展開する(=水上葉)場合は、一方向に偏ることなく、葉を放射状に展開させる。ただ、この小葉展開の詳細なメカニズムは未だ明らかになっていない。よって本研究では、フィリピンウォータークローバーの水中葉と水上葉の発生メカニズムについて調べることを目的とした。
まずフィリピンウォータークローバーを生育させる中で、固有の特徴を3つ発見した。1つ目は葉柄断面から確認される気管の大きさに偏りがあること、2つ目は個体全体でみると水中葉の小葉が偏る方向がランダムとなること、3つ目は水槽内に光を十分に照射した条件では、水上葉よりも水中葉をより選択する傾向にあるということである。
私たちは水中葉の小葉の偏りは水中で生存するための戦略であると考え、光量などの環境要因を変化させたうえで生育を試みたが、これらの環境要因が小葉を偏らせる原因となっていることは確認できなかった。その一方で、小葉がランダムの向きに生えることは、適度な光量を確保するためなのではないかと思われる結果が得られた。
次に私たちは、小葉間で水溶性の物質を放出して情報伝達を行っているのではないかと仮説を立てた。そして、水中葉のゼンマイを他の小葉から隔離して生育させた(地下茎及び根はつながっている状態だが、水中を仕切って物質の受け渡しを防いだ)。その結果、放出した水溶性物質により小葉が水上葉になることが抑制されている可能性が示唆された。現在は、具体的にどのようなしくみで水上葉になることを抑制しているかについて遺伝子発現の点から検討している。