| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) PH-20  (Poster presentation)

海への溶存鉄供給に貢献する淡水生シアノバクテリア
The supply of iron to the sea by freshwater cyanobacteria

*澤田晟斗, 石岡晃大, 佐藤萌衣, 中谷朱里, 松田有加(加古川東高等学校)
*Akito Sawada, Akihiro Ishioka, Moe Sato, Akari Nakatani, Yuka Matsuda(Kakogawa Higashi HS)

 生物の生育に不可欠な鉄は海水中で不足しがちであり,瀬戸内海などの内海でも,海苔の色落ちと鉄欠乏との関係が指摘されている。その原因として、陸水中の鉄が単独で流入しても、酸化的で弱塩基性の海水中では水酸化物の沈殿となり、生物利用できなくなることが挙げられる。しかしある種の有機物が陸水に含まれると、鉄と錯形成し沈殿を防ぐ。鉄と錯形成する有機リガンドには腐食酸が有名だが、海水生シアノバクテリアの細胞外物質に、この働きをする物質が確認されている。以上から「ため池に生息する淡水生シアノバクテリアがつくる細胞外物質が有機リガンドとして働き、海への溶存鉄供給に貢献している。」という仮説を立てた。
我々の先輩は昨年度、仮説を検証するため、鉄イオン溶液と人工海水を陸水と海水に見立てた実験区を作り、ため池から単離したシアノバクテリアの細胞外物質が海水中での鉄の沈殿を抑制することを確かめた。鉄濃度測定にはフェナントロリン法を用いた。だが、用いた鉄イオン溶液の濃度は,自然界に比べて非常に高く、自然界の濃度でシアノバクテリアが役割を果たしていることは示せなかった。
 そこで我々は,まず自然界の鉄濃度を調査した。結果、昨年度の鉄イオン溶液は,調査したため池の約300倍の鉄濃度であった。
次に、ため池の鉄濃度で、仮説の検証実験をすることとした。問題は,測定精度である。ため池の鉄濃度は,海水に加えるとさらに小さくなり,有効数字が1桁になった。さらに,フェナントロリンが海水中の鉄以外のイオンと錯体をつくることや実験中の鉄のコンタミネーションなども考えておく必要がある。
 我々は、測定法の検討(ICP法に変更)、器具の塩酸洗浄によるコンタミ防止などを行い、ため池のような低い鉄濃度の淡水でも、海水中での鉄の沈殿を確かめられる実験系を確立した。現在、この実験系でシアノバクテリアの効果の検証実験を進めている。結果は、大会にて報告する。


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