| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PH-31 (Poster presentation)
2018年春、高崎山自然動物園において、子ザルにグルーミングをする雄ザルが出現し、「イクメンザル」とニュース報道などで話題になった。しかし、私たちの調査では、雄ザルの子ザルに対するグルーミング行動はほとんど観察されていなかった。そこで、その雄ザルの行動が育児行動であるのか、また、雄ザルの行動変化の要因は何かを明らかにすべく、高崎山B群を対象に行動研究を行うことにした。雄雌各15個体について、フォーカルサンプリング法によって、各個体のグルーミングに関わる時間、その際の相手個体の情報等を調査し、雌雄の行動比較を行うと、雄ザルはグルーミングされる時間が長く、雌ザルはグルーミングをする時間が長いことが分かった。子ザルに対しては、雌ザルは長時間グルーミングをする個体が多かったが、雄ザルはグルーミングをする個体、子ザルからグルーミングをされる個体、子ザルに関わらない個体など、4つのタイプに分類されることが分かった。さらに、3歳前後の雄の子ザルが上位の雄ザルと一緒に行動する様子や、雄ザルが0歳児に強引にグルーミングをする異常行動も観察した。また、行動変化の要因を探るために、グルーミングと石遊びのスキャンサンプリング調査を行い、数年前の先行研究の結果と比較したところ、餌撒き後のグルーミング行動の頻度が増加し、同時間の石遊び行動の頻度が減少していた。このことから、B群の石遊び行動はグルーミング行動に移行し、先行研究で餌撒きのストレスを解消する行動とされた石遊び行動の代わりに、グルーミング行動が行われるようになったと考えた。以上より、雄ザルが子ザルに行うグルーミング行動の要因は2つあり、子ザルが群れの中で優位に立とうとして子ザルから雄ザルに近づくためと、雄ザルが子ザルにグルーミングすることによってストレスを解消するためであると考えた。高崎山群の雄ザルの子ザルに対するグルーミングは育児行動ではなかった。