| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) PH-65  (Poster presentation)

ヒダサンショウウオの産卵行動の解明
Observation of spawning behaviors  in Hynobius kimurae.

*三宅遥香(私立鶯谷高等学校)
*Haruka Miyake(Uguisudani S.H.S.)

 準絶滅危惧種のヒダサンショウウオは,渓流の岩に産卵し観察が困難なため,産卵行動の詳細は調べられていない.魚類や両生類などの種では,産卵時にオス間でメスや卵をめぐって争い,メスや卵へ負の影響を与えることが知られており,オスの数が多くなると個体間の干渉が強くなり受精率に影響を与えると考えられるが,繁殖行動のどういった要因が関与するのかは分かっていない.そこで,本研究では,このような行動が本種でもみられるかを明らかにするため,1)産卵前後の行動を明らかにするため,独自に開発した産卵水槽を用いてメス1匹とオス3匹とで産卵させたビデオ映像から行動を解析した.2)オスの数を変えて産卵させた卵嚢を飼育し受精率を求めた.3)受精させた卵数をオスごとに調べるため,親と子の遺伝子型による父性解析を試みた.4)野外で観察された集団産卵の状況を調べた.
 その結果,オスは産卵直前から産卵時に活発になる一方,メスは産卵後長時間活発に動き,頻繁に卵嚢と接触していた.オスの数が多いと卵嚢中央部に未受精卵がみられ受精率が下がった.遺伝子型による解析では変異が少なく父性を特定することはできなかったが,近縁種で開発された遺伝マーカーが本種でも使えることがわかった.野外調査ではこれまで想定していなかった集団産卵を砂利の中で見つけた.
 以上の結果から,オスとメスでは産卵前後で行動の種類やその回数が顕著に異なることが明らかとなった.産卵ビデオによる長時間の観察は,産卵行動の意味を知る上で有効といえる.オスが多いと受精率が下がるのはオス同士やメスへの干渉が強いためかもしれない.今後はメス1匹とオス5匹とで産卵させたビデオ映像を解析し、干渉の度合いと受精率との関係を調べていきたい.集団産卵は興味深く,砂利の中での産卵と石の裏側への産卵の使い分け条件とそれに伴う産卵行動の差異,さらに集団産卵の適応的意義は新たな課題となった.


日本生態学会