| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) PH-68  (Poster presentation)

線虫(C.elegans)の紫外線学習の発見とメカニズムの解明
Discover UV learning and elucidation of the mechanism of C.elegans

*小澤一毅(茗溪学園高等学校)
*Kazuki Ozawa(Meikei high school)

 本研究は、線虫の紫外線に対する学習について明らかにし、神経メカニズムを考察することを目的とした。実験では、通常個体(野生株)と変異体(インスリン受容変異体、グルタミン酸受容変異体)を用いた。学習の際は、(1)線虫を入れたエサ有りプレートにUVを照射した[学習時間1hr]。(2)チューブに線虫を移動した[洗浄、保持時間0.5hr or 2hr]。(3)プレートを2分割して中心に線虫を置き、片方にUVを照射、もう片方は暗くしてどちらに行くかを計測した[試行時間1hr]。計測した匹数から化学走性指数を算出し、t検定をした。
UVは線虫に害があるため、通常は避ける光であるが、結果は予想に反し、線虫はUVとエサを連合学習し、通常よりも多くの線虫がUVに寄った。また、チューブに2時間放置した場合、記憶を忘却し通常のUVに対する反応に戻った。変異体を使って上記と同じ試行をしたところ、通常個体とは異なり、UV学習後でもUVに寄らない反応を示す変異体もあった。この結果からUVの学習は、インスリンやグルタミン酸が関わる神経回路によるものだと明らかになった。この学習はこれまでの先行研究と違い、自然界に存在しうる学習である。この実験を通じて、1:紫外線に対して従来知られていなかった、エサとの連合学習を発見した。2:紫外線に対する学習での神経回路の仮説を立てることができた。通常忌避するはずの紫外線に誘引されることは、これまで報告されていない知見である。
 今回解明した神経回路はインスリンおよびグルタミン酸が関わっている経路であり、人間の脳内の学習にもそれらの物質が関わっていることが示唆される。また、記憶を維持する仕組みが解明できれば、アルツハイマー病などの原因解明に役立つ可能性がある。今後更に神経回路を細かく解析しようと考えている。紫外線を学習することでどのような生態学的利点があるのかを、行動応答や発生段階別での違いに着目して今後調べていきたい。


日本生態学会