| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
シンポジウム S01-2 (Presentation in Symposium)
微生物の群集構造はどう決まっているのか?多様性と生態系機能の関係はどうなっているのか?こういう問いに答えられる時代が、次世代シークエンサーの登場により到来したようにも思える。一方で、次世代シークエンサーが汎用化され、メタバーコーディング的な研究が進むほど、群集の中に生態が不明の微生物(Microbial Dark Matter)が多く存在することも明らかになった。特に、菌類は、海洋や湖などほとんど存在しないと考えられてきた水域生態系からも多様な系統が検出されている。水生菌類の多くは正体不明のDark Matter Fungi(DMF)であり、ツボカビなど菌類の中でもっとも祖先的な系統が占めており、菌類の進化を考える上でも注目を集めている。また、Dark Matter Fungiは寄生者や分解者もしくは共生者として物質循環や生態系機能を駆動している可能性が高い。
水生菌類は氷河や雪氷から河川、湖沼、深海まで広く分布している。下水処理場や藻類大量培養系、道路の側溝など人為的環境からも新奇の系統が検出されている。水生菌類の群集構造は高度や深度、塩分などの環境要因の勾配に沿ってある程度決まることが予想される。また、湖沼や河川、海洋では、陸上からの他生成有機物や植物プランクトンや水草など内生成有機物など、利用できる基質の種類や量の影響を受けるだろう。菌類の捕食者である動物プランクトンや、基質をめぐる競争者であるバクテリアなど、他の生物との相互作用も重要である。さらに温暖化や富栄養化が菌類の群集組成の改変を介し、生態系機能に影響する可能性もある。本発表では、水生菌類を陸から海、季節変動から長期変動といった様々な時空間スケールにて捉え、未解決かつ重要な問題を紹介し、今後の展望を述べたい。