| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
シンポジウム S01-7 (Presentation in Symposium)
生態学者たちは,生態系の成立・維持メカニズムを解明するためにこれまで様々な仮説を提案してきた.それらは主に,生物群集を種間相互作用が駆動する力学系とみなし,その“安定性”を評価することでテストされる.具体的には,1)種多様性,種間相互作用の強さ,相互作用網の構造などそれぞれの仮説に関する要素を取り入れた群集モデルを構築し,2)モデルの平衡状態を求め,その近傍における安定性を解析することで仮説を理論的に考察する,3)スナップショットの行動観察などからモデルの要素を定量化し安定性との関係を検証する,という研究が行われてきた. このような研究の流れはスマートで一見成功しているかのようだ.しかしながら,種間相互作用は非線形で状況依存的なためスナップショットの観察で近似できる保証はないし,現実に知られる群集のほとんどは平衡状態にはなく大きく変化する動態を示す.すなわち,“複雑に変動する”自然生態系の安定性に関わるメカニズムについてはほとんど分かっていないのが現状ではないだろうか?
問題解決の光明はすでにある.近年の非線形時系列解析法の進展によって比較的短い生態学の時系列データから種間の因果関係,相互作用の強さや安定性を定量化でき,現実の動態からの仮説の検証が可能になってきた.残るは.変動する群集の安定性を直接解析できる理論の構築である.そこで本講演ではこのような問題意識のもと,生物群集の安定性に関する理論・実証研究の概観や非線形時系列解析の応用について簡単にレビューするとともに,今後の群集の安定性研究において理論と実証が合一する道筋について議論したい.