| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
シンポジウム S05-4 (Presentation in Symposium)
集団採餌場面では、新奇な採餌場や技術を自ら発見する行動と、それを利用する行動という2つの戦術がある。後者は、他個体が獲得した源を直接横取りする“たかり”行動や、資源に関わる情報を“盗む”社会学習として観察される。個体がいずれの戦術を採用するかは、例えば優劣順位のような集団内における個体間関係に影響されることが理論と実験の双方から示唆されている。社会学習を利用するか否かが個体の順位に依存するならば、それによって生じる集団内の個体間情報伝播は一様にならず非対称性が生じることが予想される。
本研究では、集団採餌を行うハシブトガラス(Corvus macrorhynchos)を対象に、飼育下群れを用い、箱から餌を取得する技術の伝播に優劣順位が与える影響を調べた。群れ内の1羽をデモンストレーション個体として餌箱開けを個別学習させた後、他個体に、デモ個体による箱開けを10試行観察させた。2つの群れに対し、2つの異なる構造の箱を用い、それぞれ優位オス・劣位オスのデモ個体の条件を設け、観察学習の影響を検証した。結果、いずれの群れ・箱・デモ個体の条件においても、観察個体は有意に高い確率で、デモ個体と同じ箱の開け方を示し、観察学習をすることが確認された。劣位オス条件では、多くの観察個体が箱を開けたのに対し、優位オス条件では、ごく少数の観察個体だけが箱を開けた。特に、劣位オス条件では、劣位オスが箱を開けて得た餌を横取りする“たかり”が頻発した。これらは、採餌技術は観察学習により伝播し、劣位個体の技術が優位個体のそれより伝播しやすい可能性を示す。