| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
シンポジウム S07-3 (Presentation in Symposium)
細根は森林生態系の炭素循環や樹木の資源利用戦略において重要な役割を担うことから、その動態の詳しい解明が求められている。これまで、細根を直接観察し、成長から枯死、分解までの過程を連続的に測定する手法としてミニライゾトロン法が広く適用されてきた。しかし、ミニライゾトロン法は専用の高価なカメラやスキャナーを必要とするため、一般的に導入費用が高く、また観察面積が小さいという欠点を抱えていた。近年、これらを克服する手法としてOA機器のフラットベッドスキャナーを用いた手法(以下:フラットスキャナー法)が提案され、その適用例が増えつつある。フラットスキャナー法は従来のミニライゾトロン法に比べ、より広い範囲の土壌断面を高解像度で観察することを可能にする。また、機器自体が安価なことから、多点同時撮影や撮影の自動化などの応用が期待されている。本発表では、日本の温帯林におけるフラットスキャナー法の適用例を紹介し、その課題と今後の展望を示す。温帯のコナラ二次林において、アクリル板とシリコン充填剤で防水加工を施したフラットベッドスキャナーを数台設置し、2年間約1週間間隔で土壌断面の撮影を行った。撮影した画像をWinRHIZO Tronにより画像解析し、各期間の細根の生産・消失面積を求めた。画像中では明確な根の伸長や分岐、変色、消失などの過程が捉えられ、解析により細根動態の季節変動を記述することができた。更に、土壌中の菌糸や菌根菌の形成過程も視覚的に観察可能であった。これらの結果から、フラットスキャナー法は、導入費用を抑えつつも従来のミニライゾトロン法と同じように細根動態を記述可能であることがわかった。しかし、スキャナー埋設時における土壌攪乱の大きさやスキャナー自体の平面という環境の特殊性などが細根に与える影響は今後考慮しなくてはならない。更なる応用として、撮影の自動化・無人化などが可能になれば、遠隔地での調査や高頻度・多地点での測定などが期待される。