| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


シンポジウム S15-4  (Presentation in Symposium)

コオロギ音源定位ナビゲーションにおける行動要素抽出と環境操作
Behavioral elements extraction and environmental manipulation in phonotaxis navigation of the cricket

*小川宏人(北海道大学)
*Hiroto Ogawa(Hokkaido Univ.)

動物は視覚,聴覚,嗅覚,磁気感覚など様々なモダリティの感覚情報を用いて,目的地への移動,すなわちナビゲーションを行う。移動能力の高い昆虫は優れたナビゲーターであり,ミツバチやサバクアリなどのナビゲーション行動に関する研究が行われてきた。その結果,彼らが太陽方位や偏光コンパス,ランドマーク,経路積算システムを組み合わせて高度なナビゲーションを実現していることが分かってきた。しかし,刺激源方位の検出から運動制御に至るナビゲーション全体を統御している神経基盤の全容は依然として不明である。
一方,メスコオロギがオスの誘引歌に対して接近する音源定位行動は,神経行動学の古典的テーマとして研究されてきた。これまでに音源定位に重要な誘引歌の認識や発音メカニズムについての報告は多いが,ナビゲーションの根幹となる音源方位の認識やそれを自己運動に変換する神経機構は明らかになっていない。そこで我々は,音源定位中のコオロギから脳神経活動を計測し,音源方位の神経表現や定位運動制御機構を明らかにすることを目的とした研究をスタートさせた。
先行研究では,誘引歌は固定されたスピーカーから呈示され,コオロギがトレッドミル上を歩行する実験系が用いられてきた。この系では神経活動の計測は可能だが,コオロギが運動しても音源位置も音圧も変化せず,実際の音響環境とは大きく異なっている。そこで我々はまずアリーナ上を自由歩行するコオロギの音源定位行動を詳細に計測し,音源定位が複数の行動要素から構成されることを見いだした。さらに,コオロギの歩行運動に伴って音源方位や音圧がクローズドループ制御されるAuditory VR systemを開発し,仮想空間上で音源定位行動を再現させることに成功した。本シンポジウムでは,これらの実験装置を用いて,音源位置や音圧変化を操作した場合の行動実験の結果も紹介し,コオロギ脳内で行われている音源定位行動のための情報処理を考察する。


日本生態学会