| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
シンポジウム S16-2 (Presentation in Symposium)
近年,赤外線センサーを内蔵した自動撮影カメラが急速に普及し,野生動物の調査に広く用いられるようになっている.最近では,個体識別を必要としない個体数密度の推定手法も確立つされつつあり,自動撮影カメラは野生動物の基礎生態の解明や保全・管理のための研究にますます広く用いられるようになっていくと考えられる.将来的には,地上性動物の個体群動態に関わる全ての生活史パラメータを,自動撮影カメラのみから推定することが出来るようになるかもしれない.本研究では,房総半島の中西部に182台の自動撮影カメラを2㎞間隔で設置し,ランドスケープ・スケールでのイノシシおよびニホンジカの個体数密度を推定するとともに,その多寡に影響を与える環境要因を特定した.さらに,イノシシに関しては,連れ子数の時系列の変化を追うことで,産仔数および幼獣生存率を推定し,これらの生活史パラメータに影響する環境要因についても明らかにした.個体数密度の推定は,講演者らが開発した密度推定モデルRESTモデル(Nakashima et al. 2018)を用いて行った.この結果,①イノシシ成獣の個体数密度は人里近くの環境で高くなるのに対し,シカは人里から離れた場所で高くなること,②イノシシの産仔数の空間的な変動性は小さいこと,一方で,③イノシシの幼獣生存率は人里近くの環境で低くなることが分かった.すなわち,人里近くでは,イノシシの個体数密度が高い反面,幼獣の死亡率も高かった.こうした個体群構造は,人里近くには,耕作物を含めた餌資源が多いのに対し,箱罠・くくり罠による捕獲圧が高いことによって生じたものと考えられる.発表では,今回の結果をもとに,自動撮影カメラを用いた個体群構造やその動態研究の可能性について考察したい.