| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


自由集会 W24-3  (Workshop)

北東アジア大陸部との比較からみた日本列島の冷温帯夏緑樹林の植生地理
Phytogeographical consideration of temperate summergreen forests in the Japanese archipelago compared with Northeast Asian continent

*設樂拓人(琉球大学)
*Takuto SHITARA(University of the Ryukyus)

 湿潤温暖な海洋性気候に成立している日本列島の冷温帯夏緑樹林は、植物社会学的な分類体系ではブナクラスにまとめられている。ブナクラスは種組成の違いからササ―ブナオーダーとコナラ―ミズナラオーダーに区分される。このブナクラスの各植生単位を中国北東部、朝鮮半島、極東ロシア沿海州などの乾燥寒冷な大陸性気候に適応した北東アジア大陸部の森林植生と比較すると、ササ―ブナオーダーは大陸部には分布しない。一方、コナラ―ミズナラオーダーは大陸部のモンゴリナラクラスと種組成的にきわめて近縁な関係にある。こうした種組成の違いは、それぞれの森林の植生地理学的変遷が異なることを示唆している。さらに、日本の冷温帯の中には、ヤエガワカンバ林やチョウセンゴヨウ林のように北東アジア大陸部との共通性が高く、かつ隔離分布する特異な森林植生がある。このように日本の冷温帯夏緑樹林は地史的な分布変遷の歴史を内包する植生であり、日本と北東アジア大陸部の冷温帯夏緑樹林の種組成比較は、現在の日本の冷温帯夏緑樹林の成立過程や分化機構を解明するための重要な鍵を握る。
 しかし、これまでに北東アジアの冷温帯夏緑樹林の種組成の比較に基づいた包括的な植生地理学的な研究はほとんどない。そこで、発表者は、北東アジアにおける冷温帯夏緑樹林の種組成の比較を行い、各植生単位の位置づけや、その成立過程や分化について検討を行ってきた。本発表では、既存研究で公表された日本、中国東部、朝鮮半島、極東ロシア沿海州の冷温帯夏緑樹林の植生調査資料を用いて常在度表を作成し、日本の冷温帯夏緑樹林の植物社会学的な位置づけを検討した。また、各植生単位の標徴種や主要構成種の化石分布や遺伝解析、種分布モデルによって推定された植物の分布変遷の既存研究を踏まえながら、北東アジアの冷温帯夏緑樹林の成立過程についての知識を深めるための検討をする。


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