| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(口頭発表) E02-03 (Oral presentation)
三陸海岸・広田湾にある小友浦は1950年代後半までは扇状の干潟を伴う遠浅の入江であったが,食糧増産政策に従って約11年かけて干拓された。しかし,有効利用に至らないまま2011年3月の大津波に遭い,小友浦は干潟を伴う入江に戻った。陸前高田市は震災復興計画に小友浦の干潟自然再生を盛り込み,防潮堤も約200m陸側にセットバックされて干潟が残ることになったため,演者らは同市や漁協等の了解・協力を得て2012年から底生動物の調査を行ってきた。そのうち2013~2017年は環境省の東北地方太平洋沿岸地域生態系監視調査業務(「監視調査」と呼ぶ)として実施し,これは2002〜2004年に全国157の干潟を対象に実施された自然環境保全基礎調査浅海域生態系調査(「基礎調査」と呼ぶ)」をベースにしている。本講演では,これらの調査結果に「干潟造成」のために干潟が埋められる2020年8月までの知見を加え,重要湿地にも指定された広田湾・小友浦の今後に資する情報を提供したい。
小友浦の底生動物は2012年には27種であったが,徐々に増加して2018年に88種となり(それまでの総種数:161),水産有用種やホウザワイソギンチャク,オオノガイ,バルスアナジャコ等の希少種も含まれていた。2019年には沖合のシルトフェンスが撤去され,2020年にはアカテガニ,オミナエシフサゴカイが確認された。基礎調査および監視調査(2012〜2015年)の青森県から千葉県の15干潟で確認された種数は,それぞれ220および313であり,2013〜2015年の小友浦の結果と比較すると,小友浦で確認された77種のうち21および11種はそれぞれ基礎調査および監視調査では見出されていなかった。種組成を見ると転石や海藻・海草を伴う前浜干潟に特徴的な種が多く,大きな河川を伴わない小友浦の礫質の干潟は,東北地方太平洋沿岸のβおよびγ多様性に寄与していたと推定される。