| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(口頭発表) E02-05  (Oral presentation)

水田だけではない 明らかになった絶滅危惧水生昆虫へのネオニコチノイド系農薬の影響
The increasing serious effects of neonicotinoid pesticides on endangered aquatic insects

*苅部治紀(神奈川県立博物館), 亀田豊(千葉工業大学)
*Haruki KARUBE(Kanagawa Prefectural Museum), YUTAKA KAMEDA(Chiba Institute of Technology)

ネオニコチノイド系農薬の水生生物への被害実態は、水田のアキアカネなどのトンボ類の減少要因として注目され、その後の実験水田での実証から、明らかになってきた。その影響は多くの水生昆虫、ミツバチや食品、人の神経系への影響など多岐に渡ることが明らかになりつつある。演者らは、昨年度から本農薬が普及して以降に希少水生昆虫の地域絶滅や個体数が生じた産地の激減要因として、本農薬の影響を疑い、調査を実施した。フィプロニルを含む7薬剤を対象に解析を行った。
 昨年度、調査したマダラナニワトンボ、ベッコウトンボ、マルコガタノゲンゴロウなどの絶滅危惧種のかつての生息地や激減した生息地などから、広範の汚染が確認された。地域によっては高濃度の汚染が確認され、このような箇所では本薬剤が絶滅や減少の主要因と考えられ、農薬汚染はため池などの自然止水域にも広く拡大しており、また、近接地に農地の存在しない池でも高濃度汚染が確認された事例から地下水汚染の進行も想定されること、さらに検出は、北海道から沖縄まで水田のない地域まで広域に及ぶことなどを明らかにした。
本年度の調査では対象種や地域を拡大して展開した。フィプロニルを含む7薬剤とイミダクロプリド、フィプロニルの代謝分解物を対象に解析を行った。
東北や琉球列島の調査地では、多様かつ多数の水生昆虫が現存する生息地では、本農薬が非検出の場所が多かった。二年間の調査結果から、検出される農薬の種類や濃度は地域による差異が大きかった。また、水世昆虫がほとんど見られなくなっている調査地では、毒性が強いとされるフィプロニル代謝分解物のみ検出された地点があり、前年度の7薬剤のみの解析や、有機リン系農薬の使用も多い実態から、水生生物(とくに微小甲虫)の急減が確認された地域では、より広範な薬剤を対象にした調査が望まれる。


日本生態学会