| 要旨トップ | 受賞講演 一覧 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


第29回 日本生態学会宮地賞/The 29th Miyadi Award

人と自然の相互作用を理解する
Understanding human-nature interactions

曽我 昌史(東京大学)
Masashi SOGA(University of Tokyo)

我々は誰しも、日常生活の中で自然とふれあっている(ここでは、視覚・聴覚・嗅覚・触覚を通じて自然からの刺激を感知した体験を「自然とのふれあい」と定義する)。このふれあいは、時間的・空間的に大きく変動し、一人ひとり異なる、いわば指紋のようなものである。こうした人と自然の直接的な相互作用(human-nature interactions)を理解することは、我々の健康やウェルビーイングだけでなく、生物多様性の未来を考えるうえでも重要な意味を持つ。しかし、これまで人と自然の相互作用は、他の生物種間相互作用とは異なり、体系的に探究されることがなかった。

本講演では、生態学の視点から、私が取り組んできた人と自然の相互作用に関する一連の研究を紹介する。まず、「自然とのふれあい」の定義や分類について論じる。次に、自然とふれあう「機会」「動機」「能力」という三つの主要な要因が、人々の自然とのかかわりをどのように形成するのかを説明する。さらに、自然とのふれあいが人々の健康や生物多様性の未来に及ぼしうる影響について考察する。近年、都市化の進行や生物多様性の喪失により、世界各地で人と自然の相互作用が失われつつある(いわゆる「経験の消失」)。私は、この経験の消失を食い止め、日常生活の中で人々が自然とより豊かにかかわることが、自然と共生する社会の実現に向けた重要な手段の一つになると考えている。


日本生態学会