| 要旨トップ | 受賞講演 一覧 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


第23回 日本生態学会賞/The 23rd ESJ Prize

同位体生態学・同位体環境学と学際研究
Isotope ecology, environmental isotope study, and interdisciplinary research

陀安 一郎(総合地球環境学研究所)
Ichiro TAYASU(Research Institute for Humanity and Nature)

 生物は、取り巻く環境と物質をやり取りすることで個体を維持する。生物を構成する元素は、生物体となっている時間は短いが、その前後に大気圏・水圏・岩石圏・生物圏を循環している。このような見方で生物をみる見方に興味を持ち、生態学の研究を行ってきた。
対象とする生態系は、シロアリ・ミミズを中心とする土壌動物が関わる土壌生態系から始まり、河川・湖沼を中心とする陸水生態系、さらに海洋生態系と広がったが、一貫として興味を持っているのは相互作用であり、その解析手法としての元素の同位体組成(同位体比)である。
 大学院生と准教授時代を過ごした京都大学生態学研究センター、助手時代と現職の総合地球環境学研究所(地球研)は、それぞれ共同利用・共同研究拠点、大学共同利用機関として特殊な位置付けにある。すなわち、「同位体分析」というツールを用いて共同研究を行うハブの一つになるという役割である。「同位体生態学」が自分の学問としての専門性であるが、現在は「同位体環境学」の視点で、同位体分析を用いて、地球環境に関する課題について幅広い共同研究を行うことを自分のミッションとしている。
 元素の種類は高々100種類程度であるが、その動態はそれぞれ異なっている。炭素・窒素同位体比の分析から研究を始めたが、分析が難しく今まで避けてきた、有機物の水素同位体比なども数年前から研究対象に加えている。これらの元素の同位体比分布を多数重ね合わせ「多元素同位体地図(Isoscape)」を作成し、生物の組織の同位体比と比較することで、生物の移動を空間スケールで調べることができる。放射性炭素同位体により時間スケールも加えることで、時空間の情報とすることもできる。これらの解析を駆使することで、生態系の動態を明らかにする研究を行うことに興味を持ち続けてきた。同位体分析手法は学際的な研究に向いており、結果として今までに数多くの学生さんや研究者の方々と共同研究を行うことができた。
 近年では、地球研の属する人間文化研究機構において人文系の視点も含めた共同研究も行っている。同位体を用いた研究手法には、まだまだ思いもよらない利用法があるかも知れない。生態学会の会員の皆さまにおいても、大学共同利用機関のシステムを利用して、一緒に学際研究を推進していただくことを期待している。


日本生態学会