| 要旨トップ | 受賞講演 一覧 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


第13回 日本生態学会奨励賞(鈴木賞)/The 13th Suzuki Award

生態-進化-文化フィードバックの理解に向けて
Toward the understanding of eco-evo-cultural feedbacks

柴﨑 祥太(国立遺伝学研究所)
Shota SHIBASAKI(National Institute of Genetics)

 生物の進化動態と個体群動態が相互に影響し合うという研究結果がこの20年ほどで蓄積されてきた。例えば、環境の悪化に対して、迅速な進化によって抵抗能力を獲得し、個体群が絶滅を回避する進化的救助 (evolutionary rescue) や、被食者が捕食に対する防御形質を進化させることによって、捕食者-被食者動態が変化するといった現象が理論と実験で研究されてきた。これらの結果は、生態-進化フィードバック (eco-evo feedback) の存在を示す。ここでの進化は、遺伝子に基づく生物進化を念頭においている。しかし、遺伝子によらない進化も生物では見られる。他個体の行動を模倣するなどして行われる社会学習 (social learning) により、行動が文化進化 (cultural evolution) することもある。文化進化はヒトをはじめとする哺乳類、鳥類、魚類、昆虫など多くの分類群で見つかっており、採餌行動や配偶行動が文化進化によって変化する事例が報告されている。このような文化進化は遺伝子への選択圧を変えて生物進化と相互に影響し合い、遺伝子-文化共進化 (gene-culture coevolution) を引き起こす。また、文化は周囲の自然環境の影響を受けるほか、文化によって自然環境が変化してそこに住む生物に影響を与える。つまり、生態-文化フィードバックが生じうる。これらを踏まえると、個体群動態、生物進化、文化進化の三者が相互に影響し合う「生態-進化-文化フィードバック」の存在が示唆される。
 本講演では、演者のこれまでの研究や関連する研究を紹介しながら、「生態-進化-文化フィードバック」が進化生物学や生態学に与える可能性について議論する。特に、文化を考慮することで生態学・進化生物学に新たな研究領域が生まれる点や、文化が生物保全や持続可能な社会の構築に有益な可能性を示す。本発表を通じて、文化という切り口が、生態学や進化生物学に重要であるという視点を共有したい。


日本生態学会