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一般講演 P3-095

異なる光条件下に生育する性転換植物ユキモチソウ(Arisaema sikokianum)のフェノロジーは個体サイズや性表現に依存しているか?

*浦川裕香,小林剛(香川大・農),久保拓弥(北大・地球環境),深井誠一(香川大・農)

光強度の変動が大きい林床に生育する植物のフェノロジーは,光合成生産の最適化と強く関連している。多くの林床生の陰生植物はサイズ依存的に有性繁殖を行う。開花・結実に要する繁殖コストは,光合成生産を制限する要因となりうる。大きなサイズをもつ個体は,大きな葉面積だけでなく早い出葉や長い葉寿命を実現し,繁殖コストを補償しているかもしれない。しかし,弱光条件下における植物のフェノロジーと個体サイズおよび繁殖との関係を実験的に検証した研究はほとんどない。

ユキモチソウ(Arisaema sikokianum,サトイモ科)は,四国の林床に生育する多年生草本である。サイズ依存的に有性繁殖を行い,多回繁殖型である。春の開花時に単性の穂状花序をつけるが,その性表現は個体サイズの増減に応じて生育年ごとに無性・雄・雌の間で可逆的に変化する(時間的な雌雄異株)。本研究では林床を模した3つの光強度(相対光量子密度28%,14%,4%)下でユキモチソウを3年間にわたって栽培し,地上部のフェノロジー,個体サイズおよび性表現を追跡,そしてそれらの相互関係を解析した。

ユキモチソウの地上部は初春に土壌中の球茎から出芽する。地上部展開前の個体サイズ(出芽前の球茎生重)が大きいほど,出芽の時期は早くなる傾向があった。雌の個体サイズは雄よりも大きく,早く出芽するが,展葉の完了と開花のタイミングに雌雄間で差がなかった。また,出芽や展葉に対する光強度の影響はなかった。一方,葉の寿命は光強度の減少にともなって長くなり,球茎サイズと性表現の影響は受けていなかった。本種はサイズや生育段階に係わらず林床が明るい春先に早期の同化器官の確立と開花の同調(交配の促進)を実現し,弱光下では葉の長命化によって光合成生産の低下を補っていると考えられた。

日本生態学会