ESJ56 一般講演(口頭発表) F2-02
*池田重人,岡本透(森林総研),若松伸彦(東京農大・地域環境)
栗駒山山地帯上部の「泥炭地」と通称される湿原で花粉分析をおこなった。ここは、ウカミカマゴケ遺体を主体とする泥炭が4m以上堆積し、下層は1万年前以上の年代値を示しており(鈴木・菊池 1973)、この泥炭試料を用いた花粉分析により晩氷期以降の周辺植生を復元することが期待できる。昨年の発表では、同湿原の露頭から得た上部泥炭試料の花粉分析結果について報告したが、深さ2.5m付近にある給源不明の白色テフラ層までの連続した試料が得られなかったため、欠けている部分を含め再度試料を採取して分析した。花粉分析の結果は、最下部から表層部までブナ属が優勢でコナラ亜属やカバノキ属などが随伴していたが、亜寒帯針葉樹の花粉はどの層準からもほとんど検出されなかった。このことは、最下部の時代から現在まで周辺に亜寒帯針葉樹林はみられず、ブナを主体とする落葉広葉樹林であったことを示している。このように、花粉組成からは寒冷な時代の兆候は見あたらず、下層の年代から考えると疑問が残された。このため、泥炭の詳しい堆積年代を知るために、泥炭中に多数挟まれている葉片を用いて年代測定をおこなった。白色テフラ層前後から得た4点のブナ葉片による測定結果は3600〜4140yrBPという値を示し、晩氷期の年代とは全く整合しなかった。この原因は明らかでないが、花粉分析の結果と併せて考えると、この泥炭は数千年という比較的短い時間に堆積したとするのが妥当であるかもしれず、ここで明らかになった植生変遷も後氷期中期以降のものである可能性がある。今後、広域テフラの検出などにより検討していく必要がある。