ESJ56 一般講演(口頭発表) F2-06
牧野渡(東北大・生命科学)
いわゆる「DNAバーコード」研究のエッセンスは、様々なタクサにおいて単一の遺伝子(mtCOI)の塩基配列を種同定に用いることである。そのため、細かなタクサにおける適用性、特に「バーコードデータ」と核DNAデータとの整合性に関する検討は、必要ではあるがあまりなされていないようである。他方、淡水動物プランクトンを材料としたDNAバーコード研究は、単為生殖を行なうミジンコ類やワムシ類で多いが、常に両性生殖を行なうケンミジンコ類では知見が不足している。そこで日本各地から得られたディアプトムス科ヒゲナガケンミジンコについて、mtCOI(約600bp)の塩基配列を決定したところ、種間変異はいずれも20%程度に達し、既存の報告と一致したが、種内変異の程度は種毎に異なった。すなわち、教科書的な数%以内の変異に収まる場合、異種間での変異と同等の場合(Acanthodiaptomus pacificus)、あるいはその中間の変異幅(Neutrodiaptomus formosus)、が観察された。このうちA. pacificusに関しては、形態学的には一種類であることが確かめられている(伊藤 1953)。ゆえに本研究の結果は、mtCOIに基づくDNAバーコードが、淡水産ヒゲナガケンミジンコには適用できない可能性を示した。これらDNAバーコード的に「中途半端な」種内変異が意味することを、核DNAのITS領域の塩基配列を解析した結果と併せて考察する。