ESJ56 一般講演(口頭発表) G1-09
*岩井紀子,加賀谷隆(東大・森林動物),Ross A. Alford(James Cook Univ.)
消費者による摂食活動は、資源を減少させるだけでなく、それに伴う栄養塩の放出(栄養塩回帰)によって、資源に正の効果を与えうる。放出された栄養塩は、一次生産や微生物の活動を促進すると考えられ、食物の量や質の改変を介して、植食者や腐食者にも間接的に影響を与える可能性がある。消費者が雑食性の場合、複数の摂食対象から複数の受容者へ、様々な栄養塩の流れが起こりうる。本研究では、雑食者であるオタマジャクシ(カエル目幼生)が、森林池沼において、栄養塩回帰を介して食物網の他の要素に与える影響を理解するため、3レベルの幼生密度を用いたメソコズム実験を行った。栄養塩は通すが幼生による摂食を排除した排除区と、幼生による摂食が可能な対照区に、藻類と固着性ユスリカの生育基質としてのタイル、および落葉リターを設置した。排除区の付着藻類成長と固着性ユスリカの定着数は幼生密度とともに増加したが、対照区では幼生の影響は見られなかった。排除区、対照区ともに、幼生密度は落葉リターの重量減少、栄養塩含有率には影響を与えなかったが、窒素、リンの無機化は幼生密度とともに増加した。また、植物プランクトンは、幼生密度とともにその成長率が有意に増加した。幼生は、付着藻類と固着性ユスリカを摂食することで栄養塩を放出し、付着藻類と植物性プランクトンの成長、および落葉リターの無機化速度に、正の効果を与えることが明らかになった。以上の結果は、1)幼生が生食連鎖系内だけでなく、生食連鎖系から腐食連鎖系への栄養塩の授受を行うこと、2)付着藻類への正の効果はさらに植食性ユスリカにボトムアップ効果をもたらすこと、3)付着藻類と固着性ユスリカに対する栄養塩回帰の正の効果は、消費による負の効果に匹敵すること、を示すものである。