[0] トップ | [1] 目次

ESJ56 一般講演(口頭発表) G2-02

伝統的木造民家の構成樹種は何を物語るか?

*井田秀行(信大・教・志賀自然研),庄司貴弘,池田千加,後藤彩,土本俊和(信大院・工学系研究科)


日本有数の豪雪地である長野県飯山市の鍋倉山麓にある農村において,周辺の植生景観が民家の造りに反映されていることを,建材の樹種同定を行うことにより明らかにした。

樹種同定は,築後推定150年以上の民家一棟のほぼ全ての構造材302部材を対象に行った(床板・天井板等の板材や装飾材および危険部位は除いた)。部材ごとに採取した試料から切片を作成し,実体顕微鏡を用いた木材組織の判読により樹種を同定した。その結果,本民家は,スギ(226部材),ブナ(38部材),ナラ(ミズナラまたはコナラ:31部材),ケヤキ(7部材)の4〜5樹種で構成されていた。さらに使用部位による樹種選択(使い分け)も確認され,例えば,スギは主に約四寸(約12cm)の側柱(家屋の外側筋の柱)や長い水平材に使用し,ブナは家屋を支える主要な柱5本に約六寸五分(約20cm)の太い材を使用していた。ナラもブナに混じって梁や屋根材といった主要構造材を構成していた。ケヤキは座敷の柱に約六寸五分(約20cm)の太い材を使用していた。なお,スギ材の約半数は民家の造りから数十年前の増改築によるものと判断された。

一方,集落周辺の植生景観は現在,主にスギ植林,ブナ二次林,ミズナラ―コナラ二次林といった小林分がモザイク状に分布し,その樹種構成は民家のそれとほぼ合致した。当集落では1970年代までブナやナラの薪炭生産のために森林が持続利用されていたことから,本民家建築当初の里山林の樹種構成は現在と同様であったと推察される。以上のように,民家とそれを取り巻く植生景観には深い関係があることが確認された。特にブナが民家の構造の核となる柱・梁に多く使用されていたことは,大径木としてブナが優占林分を形成しやすいという豪雪地特有の風土にかなっていると考えられた。


[0] トップ | [1] 目次