ESJ56 一般講演(口頭発表) H1-08
石田千香子,河野真澄(京大・生態研),岡島秀治(東農大・農),*酒井 章子(地球研)
オオバギ属(Macaranga)は、東南アジアを中心に250種以上を含む雌雄異株のグループである。多くがパイオニア種でアリ共生が多くみられ、防衛について多くの研究が行われてきた。一方、送粉についての研究はほとんどないが、M. hullettiiで苞葉内の花外蜜を利用し繁殖するアザミウマに送粉されることが報告されている。防衛と送粉に関与する共生昆虫が同じ植物上で繁殖すること、アリとの共生関係では高い種特異性がみられること、多数の種が同所的に共存するという点で、オオバギ属の送粉様式は興味深い。
この研究では、マレーシア(ボルネオ島・ランビル)と日本(沖縄、奄美)でオオバギ属植物の送粉様式を調べた。ランビルのアリ共生の7種と二次的にアリ共生を失った1種では、M. hullettiiと同様アザミウマが主要な送粉者で、送粉者が開花前から定着、繁殖していた。8種で採集されたアザミウマは共通種も多く、明確な種間差はなかった。一方、沖縄と奄美のM. tanarius(オオバギ)では、クロヒメハナカメムシが主要な送粉者であった。アザミウマ媒の場合と同様、送粉者は雌雄の花序に開花前から定着、繁殖していた。カメムシは、苞葉内側に散在する微小な袋状の蜜腺から吸汁していた。このカメムシは、オオバギの開花期以外にもさまざまな植物で採集されており、アザミウマなどの植食者を補食していると考えられている。これらの送粉様式については、送粉様式の地理的変異、送粉者の植物への依存度、送粉者の雌花序上での繁殖の意義など、今後明らかにすべき点も多い。
私たちは、系統関係や標本の検討から、オオバギ属では、風媒から送粉者が花序の上で繁殖する送粉様式へ進化し、その後送粉者のシフトがおこったと考えている。オオバギ属は、送粉共生の起源や進化の点からも非常に興味深い材料といえよう。