ESJ56 一般講演(口頭発表) H1-10
*傳寳知恵(京大院・農), 谷口武士(鳥取大・乾地研), 竹内祐子(京大院・農), 二井一禎(京大院・農)
森林を構成する樹木の多くは子嚢菌や担子菌などの一部の菌類(菌根菌)と共生関係を持っている(菌根共生)。日本の代表的な広葉樹であり、近年ナラ類集団枯損(ナラ枯れ)の被害が深刻なブナ科樹木も菌根性であることが知られている。菌根共生は宿主植物の生長促進・耐病性向上などの効果を有するとされ、森林の保護管理において菌根共生に関する知見は必要不可欠だが、ブナ科樹木の菌根共生に関する知見は乏しいのが現状である。
本研究では、ブナ科樹木の菌根共生研究の基礎となる生態的知見を得ることを主な目的とし、菌根共生様式におけるブナ科2樹種間の共通点・相違点を精査した。京都市東山区のツブラジイ優占林と同市左京区のクヌギ・コナラ林に10m四方の調査区を3つずつ設置し、2006年から3年にわたり調査区内の菌根菌の生態調査を行なった。まず地上部について、2006年6月から翌年12月にかけて菌根菌子実体発生数および種数を調査した。地下部については、2008年7月に採取した土壌からDNAを抽出し、DGGE法により菌根菌群集構造解析を行なった。また、同年12月に各宿主の実生苗を採取し、菌根の菌種およびチップ数を調査した。
子実体発生調査の結果、ツブラジイ優占林ではCortinarius属菌の一種が初夏に、クヌギ・コナラ林ではRussula属菌の一種が秋に多く子実体を形成していた。また種構成は、両林分ともイグチ科・ベニタケ科が大部分を占めていたが、クヌギ・コナラ林での種多様度が高く、種レベルでの群集構造は両林分間で異なることが示唆された。以上の子実体調査結果に地下部調査の結果を加えた解析から、異なる2つの林分間における菌根菌の生態的特徴を比較したのでその結果を報告する。