ESJ56 一般講演(口頭発表) H1-11
*萩原佑亮(京大院・農・森林生態), 大園享司(生態研センター)
インドネシア、スマトラ島南部のアカシア人工林では、土壌中の窒素動態や炭素の利用可能性からN2OやCO2などの温暖化ガスの発生を解析する試みが進められている。一方、落葉分解は森林土壌における炭素集積や窒素供給に深く関わるプロセスである。菌類は落葉分解に関わる主要な土壌生物で、これらの林分において菌類が落葉にどの程度定着しており、それにより落葉の化学性がどのような影響を受けるのかについて知ることは、土壌養分の動態を把握する上で重要であると考えられる。中でもリグニンは落葉分解速度の律速要因として知られており重要である。
本研究では、熱帯域のリグニン分解菌の落葉への定着と分解を明らかにするために、インドネシア、スマトラ島南部のアカシア植林地および周辺林分で採取した落葉を使用し、リグニン分解菌の落葉への定着の指標として漂白面積率(漂白部面積/葉面積)を、滅菌した未分解・未漂白落葉への菌の摂取実験により化学組成の変化を、それぞれ評価した。
漂白面積率はアカシア林で周辺林分に比べて小さくなり、熱帯域での他林分での結果と比較しても小さい部類に入った。これはアカシアの落葉ではリグニン分解菌の定着が顕著でない事を示唆している。一方、接種実験では、アカシアに注目したときに落葉分解速度とリグニン濃度に高い負の相関があった。また調査林分全体で窒素濃度と漂白面積率に負の相関があった。アカシアは窒素固定菌と共生する事が知られており、落葉中の窒素濃度が高くなることが考えられる。その結果リグニン分解菌の定着指標となる漂白面積が小さくなると考えられた。つまりアカシアは早生樹として分解速度の遅い落葉を土壌に供給し、土壌養分の蓄積に有効である事が示唆された。