ESJ56 一般講演(口頭発表) I2-07
*右田千春, 千葉幸弘(森林総研)
林冠における生理機能の環境応答特性を解明するためには、葉やシュートの展開・枯死のようなフェノロジーや物質収支の時空間的変動などを明らかにする必要がある。そのためには、葉群の空間配置やシュート成長の3次元的な評価が不可欠である。本研究は、フェノロジーに応じたシュートの成長について林冠レベルで明らかにすることを目的とした。
調査林分は茨城県つくば市にある森林総合研究所構内にある30年生コナラ林である。観測用タワーを利用し、光環境の異なる樹冠上層、下層から供試枝を選定した。2005年に開葉期から落葉期までのシュートおよび葉の成長過程、2007、2008年に冬芽の成長、開芽後のシュート成長、過去のシュート長、直径を観測した。
本調査林分のコナラでは、4月上旬に当年生1次シュートが伸長を開始し、4月下旬から5月上旬にかけて葉の展開が進む。葉の展開完了後、6月に新芽が形成され、7月にはシュートが木化し始める。当年生シュートに形成された新芽の一部は冬を越さずに土用芽として成長を開始し、2次、3次シュートとなる。フェノロジーとともに、開芽前の冬芽サイズ、開芽率および葉、シュートの成長を明らかにした。さらに、芽鱗痕を利用し、1年生1次〜3次シュートおよび2年生、3年生シュートの成長過程を明らかにし、樹冠上層および下層で比較を行った。
下層はシュート長が短く、冬芽数が少ない上、冬芽サイズが小さく、開芽率も低かった。上層では下層に比べてシュートが長いが、枝の基部に近い冬芽の開芽率は低い傾向が見られた。1年生シュート1本あたりの冬芽数は、下層で平均4.9個、上層で平均11.4個であったが、翌年の樹冠形成に貢献するシュートとなるのは下層で1〜3本、上層で2〜5本程度であった。本研究では冬芽から発生するシュートの成長および生残を追跡し、林冠内のシュート動態について解析した。