ESJ56 一般講演(口頭発表) K1-01
*杉本豊彦(横浜国大・環),久保田康裕(琉球大・理),森章(横浜国大・環),松田裕之(横浜国大・環)
知床世界自然遺産では、エゾシカ(Cervus Nippon yesoensis)の自然植生への食害による生態系への悪影響が懸念され(石川 2003;Kaji et al 2005)、個体数の調整を含めたエゾシカの具体的な管理方法が求められている(常田ら 2004)。管理を検討するにあたり、人為的に介入せず自然にエゾシカを放置した場合、自然植生にどのような影響が生じるのか評価することが課題となっており(知床財団 2006)、エゾシカが生態系にどのような悪影響を及ぼすのかを長期的な観点で定量的に評価することが求められている。
そこで本研究では「樹木への食害(樹皮食い)」に的を絞り、樹木に対するエゾシカの食害の強さの違いが樹木の存続可能性にどのような影響を与えるか数理モデルを用いて検討した。具体的には、複数樹木の推移行列モデルを作り毎年の個体数変動を表すと同時に、エゾシカの食害による樹木の枯死数を毎年計算した。推移行列のサイズクラスは胸高直径20cmを境に2つに分けた。推移率は胸高直径の相対生長率より推定し、各サイズクラスの死亡率はある期間内での樹木の生存・死亡個体の数から推定した。食害個体の計算ではエゾシカの摂食量の増加につれ、エゾシカの「サイズクラス」及び「樹種」への選択性(Chesson 1978)を介し食害個体が増加すると仮定した(「胸高直径20cm以下」の「選択性の高い樹木」に対し選択的に食害される)。その結果から、エゾシカの摂食量が増加するにつれ樹木の地域絶滅リスクが上昇すること、そのリスクの大きさは樹種により差があることを定量的に明らかにした。