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ESJ56 一般講演(口頭発表) L2-03

積雪環境傾度にともなうコメツガの実生生残パターンのちがい ―富士山、早池峰山、八幡平の事例―

杉田久志(森林総研東北),長池卓男(山梨県森林総研),高橋利彦(木工舎「ゆい」)


本州の亜高山帯針葉樹林では積雪環境傾度に沿って構成樹種にちがいがみられ、少雪な太平洋側山地ではコメツガ、シラビソが、多雪な日本海側山地ではオオシラビソが優勢である。このようなちがいは積雪環境下での更新阻害によって形成されたと考えられる。すなわち、どの樹種でも積雪の多い山では実生が地表で定着できなくなり、定着場所が根張り、倒木、マウンド上に限定される傾向がみられ、その結果稚樹や小径木に乏しくなる。その阻害程度には樹種によりちがいがみられ、とくにコメツガではより雪の少ない段階からその傾向が顕在化している(Sugita and Nagaike, 2005)。しかし、積雪環境傾度に沿って各樹種の実生生残パターンにどのようなちがいがあるのかは明らかにされていない。本研究では、コメツガ実生についてそれを解析し、多雪山地におけるコメツガ劣勢の成因について考察した。

少雪山地の富士山、中間の早池峰、多雪山地の八幡平において、亜高山帯針葉樹林(コメツガ、シラビソあるいはオオシラビソ)内で積雪環境(最深積雪深、根雪期間)の観測を行い、実生調査区を設置して針葉樹実生を個体識別しながら生残を追跡した。調査区は地表上と根張り/倒木/根返りマウンド上に設置し、富士山では6年間、早池峰では10年間、八幡平では3年間調査した。

根張り等の上では、いずれの山でもコメツガ実生の消失は緩やかで、数十本/m2の実生バンクが成立していた。一方地表上においては、富士山では1年生秋以降ほとんど消失しなくなり、数十本/m2の実生バンクが成立していたが、早池峰では1年生秋以降も消失が止まらず、やがて消滅した。八幡平でも早池峰と同様のパターンを示した。このような積雪の多い環境下での実生定着阻害がコメツガ劣勢の原因であると考えられる。


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