ESJ56 一般講演(口頭発表) L2-06
北海道大学農学研究院
森林に大規模な風倒地が発生すると、通常、風倒木の収穫・除去が行われ、その後、予算や立地条件に応じて地拵と造林木の植栽が行われる。収穫・除去の主目的は、少しでも経済的収入を得ること、昆虫類の大発生の抑制、火災の原因の除去であり、地拵と植林の目的は、早期の植生回復である。しかし近年になって、これら一連の施業が必ずしも期待した効果をもたらさない事が、北米での調査から明らかになってきた。日本では、風倒木の収穫・除去と地拵・植林がその後の植生回復に及ぼす影響を、風倒木を残置した場合と比較調査した例はまだない。そこで、2004年の台風18号で全壊した千歳国有林5305林班(元47年生トドマツ林)の一部で、2008年から4つの処理区(A: 風倒木残置/ B: 収穫・除去・地拵・ミズナラ植栽・除草無し/ C: 収穫・除去・地拵・ミズナラ植栽・除草/ D: 残渣列)を設けて、環境(光環境、土壌含水率、土壌硬度、地表被覆物の層別被度、風散布種子量)と植生(植物種とその被度、群落全体の植被率、群落高、トドマツの樹齢)のモニタリングを行った。その結果、以下の知見が得られた。残置区(A)では残されたCWD(Coarse woody debris: 幹や枝)が半日陰の適潤な環境を創出し、シダの出現種が多かった。植被率や群落高は高く、遷移段階の高い種で構成された。収穫・除去区(BC)は、地表面が直射日光にさらされ乾燥しやすい環境で、植被率や群落高は低く、遷移段階の低い種で構成された。残渣区(D)は、CWDが集積しているため、Aに似た環境が創出された。収穫除去の傷害を免れた前生樹と新規個体で構成されるため、植被率、群落高、種組成ともにAとBCの中間的な特徴を併せ持っていた。このように、処理後1年目の結果からは、従来の施業(BCD)は、風倒木を残置した場合(A)に比べ植生回復に時間を要すると予想された。