ESJ56 一般講演(口頭発表) M1-11
*高須夫悟(奈良女子大・理), 三浦美保(奈良女子大・理), Ake Brannstrom(Umea University, Sweden)
生物学におけるゲーム理論は、メイナードスミス以来、めざましい発展を遂げ、進化ゲーム理論は進化生態学の核として確固たる地位を築くに至った。近年では様々な空間構造を考慮した進化ゲーム理論の研究が進みつつある。
ゲーム理論は多くの場合、想定する戦略の定義ならびに各戦略間の対戦の帰結としての利得表を中心に展開し、基本的には各戦略の頻度動態を記述する。しかし、利得表で定義される「利得」は極めて抽象的な概念であり、現実系において個々の生物個体が得る適応度上の利得と直接関係づけることは極めて困難であることは多くの実証研究者が認めるところである。
本発表は、古典的ゲームの一つであるタカ・ハトゲームを例にとり、生物学におけるゲーム理論の「利得」が如何に定義されるべきかについて再考することを試みる。タカ・ハトゲームとは、資源を巡って闘争を激化させるタカと闘争を回避するハトの2つの戦略を想定し、資源の価値 V と闘争のコスト C の比 b = V/C に依存してタカとハトの平衡頻度が決まるゲームである。本研究はこのゲームに連続空間を導入し、個体の視点に基づくゲームを個体群動態として再現する。いうまでもなく、個体群動態は頻度動態を含むが逆は正しくない。タカとハトの個体群動態を陽に考慮することで、古典的タカ・ハトゲームとは大きく異なる結果が得られることを示す
本研究は個体レベルの機械論的相互作用から集団レベルの振る舞いを理解する試みの一つである。これに関連して、生態学における個体の視点に立ち返ったモデリングの重要性について議論する。