ESJ56 一般講演(口頭発表) N1-03
松本 有記雄, 竹垣毅(長大・院・生産)
配偶者選択には、相手の探索に要するエネルギーや時間に加えて、捕食リスクなどのコストが伴う。他個体の選択を真似する非独立型の配偶者選択「コピー戦術」を採用することで、これらのコストが削減できると考えられているが、過去の研究はコピーか否かの検証に留まっており、その進化的意義にまで踏み込んだ研究は未だ少ない。
浅海域に生息する小型魚類ロウソクギンポは、雄が占有する巣穴に複数の雌が訪れて産卵する縄張り訪問型複婚で、卵は孵化まで雄が単独で保護する。過去の調査において、前日に卵を獲得した雄の卵獲得率が極端に高いこと、そして産卵中の巣周辺に複数の雌が集まっていたことから、本種雌がコピー戦術を採用している可能性が示唆されている。本研究では、野外観察に基づいて、本種雌のコピー戦術を実証し、その進化的意義を明らかにすることを目的とした。
その結果、雄の探索中にペア産卵に遭遇した雌のほとんどが、その巣に割り込んで産卵するか、産卵終了後にその巣に入り産卵した。これらの雌は、通常産卵では不可欠な雄の求愛を受けることなく入巣して産卵に至っており、コピー戦術の可能性が強く示唆された。さらに、産卵を観察した巣で産卵できなかった雌が、前日に産卵を観察していた巣を選択する例も確認した。巣内の保護卵数が多いほど雄に保護放棄されにくく、また卵の捕食に対する薄めの効果が高くなるため、雌は日齢の若い卵が多い巣を選べば、自身の卵の高い生残率が見込める。しかし、繁殖可能な時間帯が短いため雄を探索する十分な時間は無く、さらに、産卵せずに巣を出ると雄に激しく噛み付かれて傷付くことから、雌による巣内の卵の確認は困難である。本種雌はコピー戦術によって、少ないリスクと時間で多くの卵が存在する巣を選択しているのかもしれない。