ESJ56 一般講演(口頭発表) N1-06
*田中 啓太 (理研BSI/学振PD),森本 元 (立教大・院・理),上田 恵介 (立教大・理・生命理学)
親が子に対して養育を行うような動物では,親が子の餌請いの信号に応じて投資量を調節することは様々な分類群において知られているが,そういった場合,子が発する信号の強度はその状態に対し,正直であることが理論的に予測されている.このような,親はコストのみ支払い,子は利益のみ享受するという偏利的な利他行動において,正直な信号は信号発信者-受信者が血縁関係にあればコスト無しでも成立しうるため,理論的にもっとも重要な前提条件は両者の血縁度ということができ,それは兄弟間競争の結果,必要としているより多少多く餌請いするような場合でも同様である.しかし,托卵鳥などの社会寄生者が発する餌請い信号は,寄生者が宿主の血縁個体である可能性が皆無であるためにこの前提を満たしておらず,信号は正直になりえないにも関わらず,現時点で寄生者による不正直な信号の報告は少ない.
カッコウ科托卵鳥であるジュウイチ(Hieroccocyx hyperithrus)の雛を用い,餌請い信号が寄生雛の餌要求量に比例しているかどうかを検証した.ジュウイチは東アジアにのみ生息し,雛は翼の裏側(翼角)に口内と同色の皮膚が裸出した部分がある.雛はこれを宿主に対しディスプレイすることで餌請いを行うため,この頻度を信号の強度として用いた.餌要求量として,i)前回の給餌からの間隔(短期),ii)コンディションとして〓蹠長に対する残差体重(長期)の三種を用いた.その結果,短期においては餌要求量に比例してディスプレイ頻度が上昇し,少なくとも雛の状態という点では信号は正直であったのに対し,長期においては,コンディションが上昇して餌要求量が減少するにつれディスプレイ頻度が上昇し,餌請い信号における不正直さが検出された.これらの結果を信号の進化と寄生系という観点から考察する.