ESJ56 一般講演(口頭発表) N2-02
亀山慶晃(東農大・地域環境), 工藤 岳(北大・地球環境)
生物には様々なレベルで交配障壁が生じており、その背景にある遺伝的、生態的要因を明らかにすることは種分化過程や交雑帯の維持機構を理解する上で不可欠である。北海道大雪山系に広く分布するツガザクラ属植物では、エゾノツガザクラ(エゾ)が尾根筋、アオノツガザクラ(アオ)が雪田に生育し、両者の間には雑種第一代のコエゾツガザクラ(コエゾ)が優占している。コエゾには稔性と発芽能力があり、アオに戻し交配したニシキツガザクラ(ニシキ)とエゾに戻し交配したもの(学名無し)が確認されている。しかし、それらの定着は極めて稀であり、雑種第二代の存在は確認されていない。また、系統的位置付けが不明瞭な分類群(ユウバリツガザクラ)も存在する。本研究の目的はツガザクラ属植物の系統関係を整理すると共に、大雪山系で認められた交雑帯の普遍性を評価し、その維持機構について考察することである。調査地として、大雪山系とは地史や環境が大きく異なる知床連山と夕張岳を選定した。各々の山域で花と葉を採取し、花形質として花冠長、葯と柱頭の距離、腺毛の数などを測定した。葉からはDNAを抽出し、AFLP遺伝子型による雑種クラスの識別をおこなった。雑種の識別はNewHybridsによるベイズ推定を用いた。解析の結果、いずれの山域においても雑種第一代が非常に多く、戻し交配はごく稀であり、雑種第二代の存在は認められなかった。ユウバリツガザクラは雑種第一代またはアオへの戻し交配種のいずれかに区分された。これらの雑種クラスを花形質から識別することは不可能であり、従来の分類体系を見直す必要性が示唆された。また、大雪山系、知床連山、夕張岳のいずれの山域においても雑種後代の定着が稀であったことから、雑種第一代の種子は発芽後の雑種崩壊、即ち遺伝的要因によって定着が制限されているものと推察された。