ESJ56 一般講演(ポスター発表) PA1-032
林 寿則(国際生態学センター)
わが国における林野火災の発生状況は、1974年をピークとしてこれ以降増減を繰り返しながらも減少してきている。しかしながら近年は、山林の維持管理が十分に行われていない箇所が多く、その林床には可燃性堆積物の蓄積が進んでいることによって、火災発生の危険性は増大していると指摘されている。また、火災発生地点を事前に予測することは困難であることから、林野火災と植生研究においては被災後の植生回復過程を記録しデータを集積していくことが重要な課題とされる。
2008年6月から8月にかけて林野火災後初期段階における植物群落の再生状況調査が実施された。当該地は約30年前及び2002年にも林野火災が発生しており、既存の森林群落はアベマキ、コナラの優占する低木林が多くを占めている。林野火災後の植生回復過程について千葉(1973)、中越他(1981)は土壌中の残存種子からの再生とともに、焼残った地上部から多くの木本性樹種が萌芽再生していること報告している。当該地においても火災後3ヶ月を経過した時点で、アカメガシワやタラノキ、ヤマハギ等先駆生樹種を主とした新たな植物群落が再生しているとともにアベマキ、コナラ、モチツツジ、ネジキ等の種において旺盛な萌芽再生が認められた。この内、最も樹高伸長の速い樹種はアベマキであり火災から5ヶ月後には120cmまで伸長している個体が観察された。常緑樹種ではソヨゴ、イヌツゲ、ヒサカキ等の樹種において萌芽再生が認められた。火災後は階層構造や植被率が大きく低下する中にあって、火災前に生育していた木本性樹種の萌芽再生が、初期の植生回復において大きな役割を果たすことが予想された。