ESJ56 一般講演(ポスター発表) PA1-038
*北野昌美(横国大院・環情),大野啓一(横国大院・環情)
目的と方法:本州中部の山岳域には,森林限界高度を超える山稜部に高山帯的植生景観を呈するハイマツ群落が分布する.一方,気候的には森林限界以下の亜高山帯に位置するが,風向地や多雪地あるいは岩塊地などでは,同じ相観を呈するハイマツ群落が成立する.本研究では,成立立地を異にするハイマツ群落の組成構造の比較解析を目的として,木曽山脈の木曽駒ヶ岳から将棋頭山に至る山稜に分布するハイマツ群落を対象として植物社会学的植生調査を行った.
結果:ハイマツ群落は種組成的に2つのタイプに大別された.一つはハイマツを主体とした典型ハイマツ群落であり,もう一つは亜高山性針葉樹やダケカンバ林の識別種群を含む亜高山型ハイマツ群落である.典型ハイマツ群落は,駒ヶ岳(2956m)を中心とした標高約2700m以高の地域と,将棋頭山(2730m)の冬季季節風の風向斜面に多く出現する.一方,亜高山型ハイマツ群落は,将棋頭山の冬季季節風の風背斜面に多く出現し,出現域は標高約2600mから山頂(2730m)までの,典型ハイマツ群落より低標高に分布する.
考察:将棋頭山の周氷河性平滑斜面で構成された岩塊地に成立する亜高山型ハイマツ群落は,相観的には典型ハイマツ群落と同じであるが,種組成的に多くの亜高山性植生要素を含んでいる.このことは,岩塊地に土壌が発達したならば気候的極相林である亜高山性針葉樹林が成立する可能性を示唆している.つまり岩塊地は,亜高山性針葉樹林の本格的侵入を阻止しながら,亜高山性植生要素を含む亜高山型ハイマツ群落の分布・成立を許容する土地的規制要因として作用していると考えられた.