ESJ56 一般講演(ポスター発表) PA1-041
*松井哲哉(森林総研・北海道),並川寛司(北教大・札幌),小林誠(北大・環境科学),紀藤典夫(北教大・函館)
北海道黒松内町周辺は,ブナの天然分布北限として知られているが,紀藤(2003)は,ブナの花粉の割合が3000年前から現在まで増加傾向にあることから,分布拡大の可能性を指摘している。この地域でブナが分布拡大しているかどうかを確かめるためには,それらの立地条件,成立過程,更新状態などを明らかにする必要がある。筆者らは,黒松内低地帯の北東に位置する幌別山塊において,開葉期に撮影した空中写真と現地踏査から,孤立的に分布するブナ単木やブナ孤立個体群の分布状況を把握した。その結果,以下の知見が得られた。1.幌別山塊にはブナ孤立個体群が多く存在した。2.孤立個体群のサイズは数本から数ヘクタールと多様であった。3.孤立個体群は数百メートルから最大約4キロメートル離れていた。4.これら孤立個体群では,中―小径木が多く,ブナの更新は順調であった。5.三之助沢ブナ林においては,樹齢60-70年生の個体が多く,最高185年生であった。この齢構成は,ブナが攪乱(洞爺丸台風?)を契機に更新し,林分の拡大が攪乱依存であることを示唆している。6.五郎兵沢の流域ではブナ個体群の周囲に小規模なブナ個体群が散在し,そのうちの一つはミズナラ林内に成立した低木数本からなる個体群であった。周囲の尾根上に成立するブナの単木個体は主幹を二本有していたが,遺伝子解析の結果,別個体であった。
分布北限のブナの孤立個体群は更新が良好で分布密度も高く,今後も維持されていく可能性が高い。また,ブナ種子は,ブナ林が連続的に分布する範囲を越えて散布されており,それらに由来する定着個体が林分へと発達していく可能性がある。
謝辞:三重大学の板谷明美氏には、空中写真の解析にあたり、大変お世話になりました。