ESJ56 一般講演(ポスター発表) PA1-052
*野田響(岐阜大・流域圏セ),村岡裕由(岐阜大・流域圏セ)
森林の林床における稚樹や萌芽の順調な成長は,森林の更新にとって重要なステージである。日本の落葉広葉樹林林床では常緑性のササがしばしば非常に密な群落を形成する。ササの繁茂は樹木の実生や稚樹の受光と物質生産を制限し,その結果,落葉広葉樹林林床における稚樹の分布が決定するものと予測される。本研究では落葉広葉樹林内でのササの分布と落葉広葉樹の稚樹の分布との関係を明らかにする研究の一環として,冷温帯落葉広葉樹林においてササ群落の密度と群落内外の光条件,および稚樹の分布調査を行った。調査は,岐阜大学高山試験地(岐阜県高山市)のミズナラ・カンバ林に設けた5m x 20mの調査区において7月に行った。調査区を50cm x 50cmのコドラートに分け,各コドラート内のササの桿数,ミズナラとウリハダカエデの稚樹の個体数を調査し,地上20 cm付近における相対光量子密度(RPPFD)を測定した。その結果,調査区内のササの桿数は0−27本(3.7±5.3本)だったが,調査区内に生育するミズナラ28個体,ウリハダカエデ391個体のうち,それぞれ14個体,275個体がササの出現していないコドラートに生育しており,ササの分布は稚樹の分布を制限していることが示された。一方,調査区内のRPPFDは0.4−7.9%(2.2±1.3%)だったが,RPPFDが2%以下のコドラートであっても,ミズナラが16個体,ウリハダカエデが284個体生育していた。さらに,本研究では,ササの密度の異なる場所に生育するミズナラ,ウリハダカエデの稚樹について,構造−機能モデルY-plantを用いて個体全体の物質生産量を推定し,ササの存在が,光環境を介して稚樹の物質生産に与える影響について検討する。