ESJ56 一般講演(ポスター発表) PA1-058
*野村遼介,日浦勉(北大・苫小牧)
窒素は,植物にとって非常に重要な資源である。そのため,植物は限られた窒素を有効に利用するように様々な工夫をしている。一方,樹木の生育環境を地理的スケールで比較すると,同じタイプに属する森林でも気候傾度に沿って養分利用可能性に大きな違いがある。このように広い環境勾配に沿って分布する樹木では,それぞれの地域でどのように窒素を利用しているだろうか。そこで本研究では,日本列島に幅広く分布するブナを用いて,各地の窒素利用効率を比較検討した。
窒素利用効率(NUE)は単位窒素当たりの生産量(A)と窒素の滞留時間(MRT)という二つのパラメータに分けて表現される。本研究では,北海道・東北・九州三箇所のNUEを算出した。さらに,苫小牧研究林に共通圃場を設け,MRTに大きな影響を与えていると考えられる窒素の再吸収効率(REFF)を算出した。
調査の結果,NP・MRT・NUEの値は高緯度地域である北海道・東北と,低緯度地域である九州の二つのグループに分けられた。NPは低緯度地域が高緯度地域よりも高く,MRTは逆に高緯度地域の方が高い値であった。MRTの違いがNPの違いを上回ったため,両者をかけた値であるNUEは高緯度地域の方が高くなっていた。高緯度地域は低緯度地域よりも,REFFを向上させることによって,高いMRTを実現させていた。MRTの逆数は窒素の循環速度を意味する。つまり,一般的に有機物の分解速度が遅いと考えられる高緯度地域では,REFFが高いことにより,樹木個体内の窒素循環速度も遅くなっていた。
一方,共通圃場では九州産のREFFが向上した。しかし,リターの窒素濃度である窒素回収熟達度は,野外と同じ傾向であった。